新しい気持ちで、新しい土地へここから旅立ったはずなのに、
心だけはずっと昔の想いを引きずったまま。
きっと、早く想いは断ち切らなきゃいけないのだと思う。
それでも、それが出来ないのはどうしてなんだろう。
たまに、てっちゃん以上の男現れればいいのに! って思ったりする。
でも、何かが違う。
きっと私は、まだまだ……、
てっちゃんが好きなんだろう。
彼女がいるかもしれないと知った今でも。
「カーン カーン」
そんな懐かしい気持ちを打ち消すように、駅にある大きな鐘が鳴った。
「もう2時じゃん。お姉の迎えまだかなー」
つぶやく言葉はあの頃と同じ。
「てっちゃんまだかなー」
この駅で数え切れないくらい待ち合わせをした。
部活で遅いてっちゃんを待つのはいつも私の役目。
でも待つのは嫌いじゃなかった。
サッカーをしている姿のてっちゃんを想像したり、
会って一番に言う言葉は何にしようかなーと考えてシュミレーションしたり、
数学の真島先生のモノマネをおもしろいから見せたいけど、
やっぱり恥ずかしいから今日もそれはナシかなーとか。
待ってる時間も、恋の時間には変わりなかったから。そんな時間も幸せだった。
なのに、その思い出の場所に私は今一人で立っている。
てっちゃんは、冷たい看板の向こう側にいるのだ。
駅についてから20分後、やっとお姉ちゃんの迎えの車がきた。
「プップー。ゆーちゃーん!」
「お姉、遅いよー」
「ごめんねー。道すべるから慎重にきたのさ(笑)」
切なさでいっぱいになりそうだった心が一瞬で解ける。
お姉ちゃんの前で、私はちょっと東京慣れした「桐橋ユリ」になった。
てっちゃんを「元カレ」って呼べちゃう、そんな妹に戻っていた。
「ゆうちゃん、ちょっと痩せたんじゃなーい?
お母さん、張り切ってご飯作るってさ。まっすぐ家いくでしょ?」
「うん。いくいく」
「では、出発しま~す!」
お姉ちゃんが運転する車が、どんどん駅から離れていく。
てっちゃんの思い出と、私を引き裂くかのように。
つづく