「お疲れっしたー」
「じゃーねー」


先輩たちに手を振って、私は駅に向かって歩き出した。

12月の風は冷たく澄んでいて気持ちがいい。
今日はバイト先の先輩たちとささやかな忘年会だった。


千恵ちゃんが厨房の志村さんを好きだということが発覚し

(千恵ちゃんは、好きじゃなくて気になる程度だって何度も言ってたけど) 、

店長が他のチェーン店の女従業員とできてるらしいという噂で盛り上がった。


同じ短大に通う麻里さんには、彼氏の写メを見せてもらった。
W大の4年生で、銀行への内定が決まっている彼氏らしい。


「短大を卒業したら結婚する約束なんだ」と、

はしゃぎながら言っていて先輩かわいいなと思ったけど、

付き合ってまだ三ヶ月だからのろけてるだけなんじゃないか?という本心は隠した。


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東京に来て八ヶ月が経った。思ったことを何でも口に出してはいけない、ということを知り、

気をつかう事にも慣れて自分なりに「うまく」生きられるように成長したと思う。


あと、数ヵ月であれから一年が経とうとするけど、

上京してくるときに、「東京いくから」と言ったときの、

てっちゃんの驚いた顔が今でも忘れられない。


「なんで?」って想いと「じゃあオレ達お別れだね」ということを察知したような、

なんとも言えない複雑な表情をされて、こっちも嫌な気分になった。


「別にてっちゃんが嫌いになったわけじゃないんだけど、自分の夢を追い掛けるのもいいかなって思って…」


そんな気持ちを最後まで言えずに、

「オレも東京いくよ」という淡い期待も虚しく散ったお陰で、てっちゃんとサヨナラをした。


ぶっちゃけ、今でもてっちゃんのことを忘れられない。

初めての彼氏。付き合った一年間は今でも大事な思い出だ。


でも、てっちゃんは今、後輩と付き合ってるらしい。そんな余計な情報を仁科がメールしてきたのは、梅雨どきの6月末くらいだったっけ……。


つづく